Paraclimber Movie Koichiro Kobayashi 001

Koichiro Kobayashi climbs with the help of sighted guide Naoya Suzuki. (© Life is Climbing Production Committee)

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パラクライミングの国内第一人者の〝レジェンド〟で、今年競技生活を引退した小林幸一郎さん(55)=東京都武蔵野市=が米ユタ州の砂岩「フィッシャー・タワーズ」に挑んだドキュメンタリー映画「ライフ・イズ・クライミング!」が5月12日から、全国の劇場で公開される。高さ約100メートルの奇妙な形の尖塔(せんとう)に、全盲の小林さんが仲間と登る過程を追ったロードムービー。「人生は美しい」と心から感じられる作品は映画だが、紛れもない実話だ。

 

きっかけは5年前。小林さんが2014~19年の世界選手権・全盲クラスで4連覇した際に目の代わりの「サイトガイド」を務めた鈴木直也さん(47)が、「コバちゃん(小林さん)をここに登らせたいんだよ。行こうよ」と持ちかけた。11年からパラ選手権の日本代表チームに同行する鈴木さんは10回超、小林さんの海外クライミングに同行している。せっかくなら映像をネットにでも上げたいと相談したのが、今作品で映画デビューした中原想吉監督(46)だった。

 

当初は2019年の秋に渡米して撮影する計画だった。しかし、現地は自然保護区で許可申請が間に合わず、延期に。次に20年春を目指したが、今度は新型コロナウイルスの感染拡大により米国はロックダウン、日本でも緊急事態宣言が発出され、3人とも生業の維持が課題という事態に追い込まれた。

 

巨大な岩壁を登る小林幸一郎さん(下部)=©Life is Climbing製作委員会提供

 

渡米がかなったのは21年10月。15歳の時に米国でフリークライミングに出会った鈴木さんがこだわった、古いバンで移動しながらクライミングする-というスタイルで旅は始まる。60~70年代に米・ヨセミテを開拓したクライマーたちが好んだスタイルだ。ダイナミックな赤い砂岩に白いバンは実に絵になるが、「本当にぼろぼろで、漫画みたいに次々とあちこち壊れた」と小林さんは笑う。

 

今回のメイン課題は、奇妙な尖塔がある高さ約100メートルの「ストールン・チムニー」ルート。あらかじめロープを張ったトップロープで登るとはいえ、全盲の小林さんが一歩間違えば…という厳しい課題だ。

 

鈴木さんは一体どうガイドしたのか。聞くと、「くねくねしてるよ、って」。サイトガイドの中には、模型を触らせて説明する人もいるというが、「ナオヤ、いっつもそんな感じです」と小林さん。「コバちゃん、本当によく登れるよねぇ。俺だったら絶対無理!」。最強の名コンビぶりは作品中でも、うらやましくなるほど楽しそうだ。

 

クライミングの取り付き部分へ向かう鈴木直也さん(右)と小林幸一郎さん(©Life is Climbing製作委員会提供)

 

2人は約20年前に出会ったきっかけを作った友人、鈴木さんが学んだコロラド山岳大学…と、大切な場所や人を訪ね、28歳で視力を失う難病と判明して失意の中にあった小林さんの人生を変えた全盲のクライマー、エリック・ヴァイエンマイヤーさん(54)とも再会する。「仲間がいるから冒険ができ、人生は美しい。君たちも、そうだろう」と語るエリックさんの言葉には、あらゆる人を包む深さがある。

 

「フィッシャー・タワーズ」でのクライミングを振り返る小林幸一郎さん(左)と鈴木直也さん=4月、東京都内(木村さやか撮影)

 

小林さんは「この映画の主人公はナオヤ」だという。「誰にも分け隔てなく接し、共に心から楽しむ。こんな生き方があるんだ、ということを知ってもらえたら」

 

10日には、2人のほか車いすテニスの第一人者・国枝慎吾さんらをゲストに迎えてのプレミア上映会を東京・恵比寿ガーデンシネマで開催。関西では20日、シネ・リーブル梅田(大阪)とアップリンク京都(京都)で小林さん、鈴木さんが参加してのイベントも予定されている。

 

筆者:木村さやか(産経新聞)

 

 

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